遺言
遺言の種類
遺産は基本的に相続順位ごとに相続されますが、遺言書があると変わります。遺言は文字で残すのが原則で、後日の改変が可能なビデオテープや録音テープ、点字などは認められていません。
また、いくら仲の良い夫婦であっても、遺言は共同で作成はできません。個人単位で作成します。
遺言には以下の方法があります。
○自筆証書遺言
本人が本文、日付、氏名を自筆で書き、捺印したものです。
用紙は何でもかまいません。
公証人などに依頼せず、一人で作成できるため内容も秘密にできます。ただし、筆跡が乱れていたり、有効性に問題があったり、他者による隠匿や破棄の危険性もあります。以下の点に注意して作成します。
・ワープロやパソコンなどでの作成は認められません。他人による代筆も認められません。しかし、手が震えてしまうために、他人に添え手をして書くものは認められます。
・確実に記入日が特定できるよう、年月日を書きます。
・遺言書の最後に署名と捺印をします。捺印は実印、認印、また拇印でも有効となります。ただし、実印を捺印した方が改変される可能性が少なくなります。
・加除訂正は大きな影響を及ぼす可能性がありますから慎重に行いましょう。訂正する場合は、署名の印鑑と同じものを捺印します。
・様式は、縦書きや横書きどちらでもかまいません。筆記用具はボールペンなど、改変されにくいものにします。
・遺言書は銀行の貸し金庫に保管したり、遺言の執行者に預けるようにします。
○秘密証書遺言
遺言書の存在が秘密のまま、相続の開始時に偽造の疑いをかけられないで本人の遺言だと確定できるのが秘密証書遺言です。
秘密証書遺言は、遺言者自身が公証役場に遺言書を持っていき、遺言者本人が認める遺言書であると公証人に証明してもらうものです。 秘密証書遺言は自筆の署名が必要ですが、文面自体はワープロやパソコンで作成してもかまいません。また、公証役場で公証人に遺言書を証明してもらう時に、利害関係のない成人二人以上を証人として連れていく必要があります。
○公正証書遺言
一番安全で確実な方法が公正証書遺言です。公正証書遺言は、遺言者の希望する内容を法務大臣から任命された公証人が遺言書として作成します。また、原本が公証人の手元に20年間保管されるため、紛失や改竄、盗難などの心配がありません。
公正証書遺言は、本人が公証人役場に出向き、証人2人以上の立会いの上、遺言の内容を話し、公証人が筆記します。
内容の確認をしたら、本人と承認それぞれの署名、捺印を行います。
更に、公正証書遺言の形式に従って作成した旨を公証人が記載し、署名、捺印します。
一番安全な方法ですが、上記のように手続きが面倒なのと、遺言の存在と内容を立ち会った証人に知られてしまうというデメリットがあります。
○特別方式による遺言
<普通方式による遺言ができない場合、特別に許された方法です。
①死亡の危急に迫った者
②伝染病で隔離された場所にある者
③船舶中にある者
④船舶遭難者
遺言事項
遺言事項は民法で定められています。大きくは身分あるいは家族に関する事項、財産に関する事項の二つに分かれます。さらに、財産に関する事項は相続に関することと、財産の処分に関することに分かれます。
○身分・家族に関する事項
・認知(自分の子供であることを承認すること)
・後見人や後見監督人の指定
・祭祀主宰者の指定
○財産に関する事項
1.相続に関する事項
・相続人の廃除と排除の取消
・相続分の指定、もしくは相続分の第三者への委託
・相続が開始してから5年以内の遺産分割を禁止すること
・相続人が負う担保責任を指定すること
・遺言執行者の指定および委託
2.財産の処分に関する事項
・遺贈
・遺贈減殺の方法の指定
○遺言ではできないこと
・相続人の指定
・養子縁組をすること
遺言の保管
遺言は書面で行います。遺言によって自らの意思を実現するためには、相続人がその遺言書を発見しないと、遺言の効果はありません。
そのため、遺言書は相続人が見つけやすく、しかも隠されたり改竄されたりする心配のない場所に保管しなければなりません。
もし、そのような場所がない場合は、以下のような方法があります。
○公正証書遺言の場合
公正証書による遺言は遺言書の原本が公証役場に保管されます。そこで、相続人に公証役場に遺言書を作成してあると伝えておけば大丈夫です。
遺言者が存命中に遺言書の存在が明らかになり、相続人が公証役場へ行ったとしても、公証人は遺言書の内容を教えたり見せたりはしません。遺言の内容を秘密にするには最適の方法です。
○司法書士に頼む場合
遺言書作成を依頼した司法書士に保管を頼むことができます。
司法書士には守秘義務があるので、職務上知りえた事実を第三者に洩らすことは禁止されています。そのため、遺言書の存在自体を秘密にしておくことも可能です。
○第三者に頼む場合
自筆証書遺言の場合、配偶者や親族に預けるのが一般的です。
しかし、法定相続人など遺産に利害関係のある方に預ける場合、隠匿、改竄の恐れがあり、後に紛争の種になりかねません。遺産に何の利害関係のない公正な第三者に保管を依頼した方がいいといえます。
遺言で遺言執行者を定めた場合は、遺言執行者に預けておくこともできます。
遺言の撤回
遺言者はいつでも遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができます。
遺言は遺言者の意思に法的効果を認めるものです。
ただ、遺言の作成と遺言者の死亡との間には時間的間隔があるため、遺言者は、生前はいつでもその意思を変更して遺言を撤回することができるようになっています。
遺言書が何種類か存在する場合に、内容が異なるときは、後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなされます。
また、遺言者が故意に遺言書を破棄した部分については、遺言を取消したものとみなされます。 これをみなし撤回と言います。
遺言執行
遺言書を実現するには様々な手続きがあります。
遺言を執行する遺言執行者を遺言で指定したり、第三者に指定を委託したりすることができます。
遺言執行者は指定しなくてもかまいませんが、遺言執行者がいなければ実現できないこともあります。遺言執行者の指定は遺言の中だけで認められていて、口頭での取り決めは認められません。
遺言の執行が複雑になると予想される場合は、遺言執行者を複数名指定しておくことも可能です。
また、遺言で指定を受けた人が遺言執行者を辞退することも認められています。
遺言の執行者の指定がなかった時は相続人や利害関係人が家庭裁判所で選任の請求を行います。
遺言の執行には法律の知識を要するので、専門家に依頼するのが一般的です。
遺言執行者は選任を受けると早速遺言の実行にかかります。
遺言執行者は以下のような職務を行います。執行者は調査経過や、執行内容は相続人に報告していく義務がありますが、執行が終わるまではすべての財産の持ち出しを差し止める権限を持っています。
相続人は、遺言執行の職務を終了すると報酬を遺言執行者に支払います。その報酬額は遺言でも指定できますが、家庭裁判所で定めることもできます。
・遺言者の財産目録の作成
財産を証明する登記簿、権利書などをそろえて財産目録を作り、相続人に提示します。
・遺産の分配
遺言に沿った相続割合の指定をし、相続人に遺産を分配します。登記申請や金銭の取立てをします。また、相続財産の不法占有者に対して明け渡しや、移転の請求なども行います。
・遺贈受遺者に遺産を引き渡す
相続人以外に財産を遺贈したいと遺言書にあれば、配分の指定に従って遺産を引き渡します。その際、所有権移転の登記申請なども行ないます。
・認知の届出をする
子供などの認知の遺言があるときは、戸籍の届出をします。
・相続人廃除、もしくは廃除の取り消しを家庭裁判所に申し立てる。
○遺言の実現
公正証書遺言は公証人役場に保管されているので相続開始後すぐに適用されます。それ以外の遺言書はすぐに見つけられない場合もあります。
公正証書遺言以外の遺言書は見つかった時点で速やかに家庭裁判所へ持っていき、相続人の立会いのもと遺言書が開封され、検認されます。
検認とは、遺言書の形式や状態を調査して、その結果を検認調書という公認文書にしてもらうことです。
公正証書遺言は公証人に作成してもらった時点で公文書扱いとなりますから、検認の必要はありません。
検認を受ける前に未開封の遺言書を開封し、偽造、改ざんすることは厳重に処罰される禁止項目です。遺言そのものが無効になることはありませんが、相続人に刑事罰である過料が科せられたり、相続欠格として相続権を失うこともあります。
もし遺言書が二通以上見つかった場合は、一番新しく書かれた遺言書が適用されます。